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ゲーム作りに関するあれこれ

ゲーム作りに使える心理学【決定麻痺】

今回はゲーム作りに使える心理学として決定麻痺を紹介する

決定麻痺

人は選択肢が多い時時に、その選択を先延ばしにしたり、選択自体をやめてしまったりすることである。決定麻痺に関する有名な心理実験としてコロンビア大学のジャムの実験がある。

日常の決定麻痺

日常で起きる決定麻痺としてありがちなのは、やはり買い物時だろう。

例えば家のパソコンの調子が悪く、家電量販店で新しいパソコンを買いに行ったとする。詳しい人なら自分の求める選択をすぐできるだろうが、そうではない人からは陳列されているパソコンが全て同じに見える。カタログを見てもよくわからない文字が並んでいる。一つ一つ店員に聞いて考えることはできるが、大変な労力だ。そこで、"まだ動いているし今回はいいや"と購入を先送りにしたり、店員の勧めるがままのパソコンを購入したりする。

他には飲食店で注文する時もそうだろう。ランチでカレーが食べたいと思ってレストランに言ったら他にも大好物のメニューがたくさんある。そしてあれが良いかも、これが良いかもと時間をかけて迷うわけだ。流石にランチ自体を取りやめることはないだろうが。

なぜ決定麻痺が起きるのか

これは選択肢が多い時と少ない時で、私たちがどのように感じるのか、を考えるとわかりやすい。まずは選択肢が多い時だ。たくさん選択肢がある中で自分が最も満足するものを選ぼうとする場合、とても大きな労力が必要になる。可能性のある選択肢を全て吟味し、それらを順位付けすることは骨の折れる作業である。

逆に選択肢が少ない場合は、それらを吟味することも、順位付けをすることも比較的簡単だろう。それができれば、自分が最も満足するであろう選択をすることができる。

この自分が最も満足する選択を行うことに対する労力の違いが決定麻痺に現れる。

一言でまとめると、選択肢が多い時に決めることはとても疲れることで、私たちは疲れることが嫌いだ、ということである。

ゲーム作りでの決定麻痺の落とし穴

ゲーム作りにおいて陥りやすい決定麻痺の落とし穴を考えてみる。まずなんと言ってもゲームにおける選択肢を増やしすぎることだろう。例えば戦闘システムを作成するとして、移動、剣で攻撃などの戦闘コマンドを30個作ったとする。これで5人パーティで10ターンの戦闘をしたら30x5x10=1500通りも組み合わせができる。なんて奥の深いゲームなんだ、とプランナーは思っていてもプレイヤーはそうは思わない。毎ターン30個のコマンドを全員分吟味しては一回の戦闘で疲れ果ててしまうだろう。そして行き着く先は使うコマンドの固定化か、プレイヤーの離脱である。

数年間運用したソーシャルゲームでも決定麻痺を見ることができる。数年間せっせとユーザーの要望に答え続けてきた結果、仕様、機能が膨らみ簡単には全貌が把握できないレベルになっている。それに合わせてUIもガンガン追加されるため、初心者にはもはやどのボタンを押したら何が起きるのかも把握できない。そしてゲームの面白さを体験する前に、その情報量に追い立てられ、離脱してしまう。

機能が多いことは必ずしも良い結果になるわけではない。選択肢だけ多分に用意し、実際の決定をユーザーにぶん投げることは考え直したほうが良いだろう。

決定麻痺の回避方法その1 選択肢を絞る

選択肢が多くてユーザーが疲れるならば減らせば良い、ということだ。選択肢をいたずらに増やさない、面白くないと思った時に簡単に仕様を付け足さない、今ある選択肢の中から本当に必要なものだけ残す、というところから始める。この仕様の圧縮はユーザーに提供したい体験の定義や、仕様の吟味などが必要なため、なかなか大変な作業となる。

決定麻痺の回避方法その2 機能を制限する

たびたび機能制限に関しての効能を話しているが、ここでも登場する。考え方は回避方法その1と同じだ。序盤では機能を絞り、ユーザーにできることを限定する。そうすれば自ずとできる選択肢は絞られプレイヤーはその中から気に入った行動を、自信を持って行うことができる。

決定麻痺の回避方法その3 おすすめをする

決定麻痺は選択肢が多いことによってもたらされると話したが、他の方法でも発生する。それは決定する物事に対しての十分な知識を持ち合わせていない時だ。選択肢が少なかったとしても、それらが具体的に自分に対してどれだけの価値があるのかを判断できない。例えばプレイ開始前の難易度選択が挙げられる。まだ一度もプレイしたことのないゲームの難易度をいったい誰が適切に選択できようか。この時はゲームでおすすめ難易度を提示してしまうのが良いだろう。迷ったらこれ、というやつだ。

あとは初心者ミッションもおすすめをする方法の一つだ。これをやっておけばゲームの面白さが体験できる、というところまでプレイヤーをエスコートしよう。あとはその世界を勝手に楽しんでくれるだろう。

まとめ

人は自分で決めることが好きだが、同時に嫌いでもある。決定麻痺によりプレイヤーがゲーム内で迷ってしまわないように、迷ったとしてもきちんと誘導できるようにしていきたい。

最初のポケモンは3匹から選ぶからこそ最高の相棒になるのだ。

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ゲーム作りにおいて、序盤でプレイヤーにかかる認知負荷を減らす方法を考える - gametips

ゲーム作りに使える心理学【時間割引】

 今回はゲーム作りに使える心理学として、時間割引を紹介する

時間割引

人はすぐにもらえる報酬ほど価値が高いと感じ、もらえるまで時間がかかる報酬は相対的に低く感じる、ということ。例えば今すぐ1万円もらうのと1年後に1万1000円もらえるのだと今すぐ1万円もらった方が価値が高いと感じる、ということだ。

日常にある時間割引

例えばダイエットだ。適正体重と言う将来の大きな報酬と、カロリー満点のハンバーガーという目の前の小さな報酬とを比べた時に、目先の欲望に負けてつい食べ過ぎてしまったという話はよく聞く。

受験勉強も時間割引が働く。志望校に入学することは本人にとっては大きな報酬だが、受験がまだ先の場合はその報酬を小さく感じてしまう。そこで身近で手に入れやすい報酬であるゲームをプレイすることや友達とおしゃべりすることの方を優先してしまうのだ。

時間割引は本能の産物

第4次産業革命が叫ばれて久しい昨今、持っている情報や自分のスキルが今後の生き方、働き方に直結する現代で、この時間割引とはなんと憎たらしいものだろうか。こいつのせいで思うように体重は減らず、成績は上がらない。

しかしよく考えてみるとこの遠くの大きい報酬より近くの小さい報酬を優先する考え方は、今よりもっと不確実性が多かった時代、例えば狩猟採取社会に生きる我々の先祖から見たら合理的な判断であっただろう。当時は生きるか死ぬかの時代で、狩猟や採取のちょっとした失敗が死に繋がる。つまり時間をかけて大きな報酬を狙っていたら得る前に死んでしまう可能性があったのだ。そこで小さくても確実の報酬を手に入れておくことがその時の生きる知恵だったのだろう。そしてこの考え方は現代を生きる我々にもしっかりと引き継がれていく。

マシュマロテスト

この時間割引の適正を測る方法として面白い実験がある。マシュマロテスト、というものだ。これは4歳ほどの子供を対象に、まずマシュマロを1つ渡し、15分間それを食べるのを我慢できたらマシュマロをもう1つ渡すと伝え、彼らが我慢できずにマシュマロを食べてしまうかどうかを判断するものだ。その結果、約1/3ほどの子供がマシュマロを食べるのを我慢できたのだが、彼らは成長したのち受けた大学進学適性試験(SAT)の点数が、食べてしまった子と比べて大幅に高かったそうだ。

彼らは時間割引の効いた15分後のマシュマロ2個の方が今のマシュマロ1個よりも価値が高いと感じたのだ。もちろん実験時はそんな価値云々などは考えておらず、マシュマロのことばかり考えていたのだろうが、その感性がその後の好成績につながったのだろう。

ゲーム作りでの時間割引の応用 その1 すぐさま報酬を与える

時間割引から、すぐさま報酬をもらえる方がプレイヤーが価値を感じるということになる。であれば何かを達成した時にすぐさま報酬を与えてしまおう。報酬と言ってもこまめにパラメータを上げてやる必要があるわけではない、例えばコントローラや端末がブルっと震えたり、かっこいい演出が出たりするだけでも十分な報酬である。プレイヤーの一挙手一投足に対してちょっとフィードバックを入れたり、演出を追加する。この小気味良い演出のことをしずる感と言って、手触りの良いゲームはこのしずる感が絶妙に組み込まれており、ただ移動しているだけなのに楽しい、という感じになる。このしずる感に関しては後ほどしっかりまとめたい

ゲーム作りでの時間割引の応用 その2 報酬を適切な位置に設定する

いくら大きな報酬を用意したとしても時間割引が効いてしまっていたらプレイヤーはその報酬の価値を小さく感じてしまう。例えば、RPGで最初の町でいきなり"あのラスボスを倒せ!やることはレベル上げだけだ!"と言われたらどうだろうか、報酬のあまりの遠さにやる気がなくなってしまうのではないだろうか。それを防ぐためにゲーム中のちょうど良いところに報酬を散りばめる。これは少しプレイしたら獲得できるレベルのものだ。これでプレイヤーはその近くて小さい報酬を獲得しようと行動する。そしてそれらが積み重なった結果ラスボスを倒すという大きな報酬を手に入れるのだ。

まとめ

全く同じ報酬でも、それらどのくらいの遠さにあるかが、プレイヤーがその報酬に対して感じる価値を左右する。どんなプレイヤーでも、ゲーム内のどんなタイミングでも、適切な報酬が提示できているかは、常に頭の中に入れておく必要があるだろう。

参考

マシュマロ実験 - Wikipedia

ゲーム作りの落とし穴【多義図形】

ゲームを作るときの落とし穴として多義図形を紹介する

多義図形とは

一つの図形でありながら、2つ、もしくはそれ以上のものに見ることが可能な図形である。曖昧図形ともいう。

多義図形の例

ウサギとアヒルの絵が有名だろう。

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この絵は見方によってウサギともアヒルともとることができる。

他には横顔が若い女性にも老婆にも見える絵などがあるだろう。

多義図形の問題点

上記の絵のようなものを、トリックアートとして楽しむのなら特に問題がないのだが、それを一般生活に持ち込んでくるとなかなか面倒なことになる。人によってそれらの図を見たときの解釈が違うのだ、例えば道路標識などで、みる人の解釈が違う図形が採用されたらそれが重大な事故につながりかねない。

他には、ととあるコンビニのドリップマシンのデザインも多義図形だと言えるだろう。そのマシンにはRとLのボタンがポツンとついている。ドリップマシンなのでもちろんそれらはコーヒーのサイズであるRegularとLargeなのだが、これらの頭文字が2つ並ぶとどうしてもRightとLeftを想起してしまうのは私だけであろうか。結局そのデザインでは情報を適切にお客に伝えることができず、テプラなどで装飾されてしまったもマシンもあった。

多義図形とゲーム

ではゲームではどうだろうか。多義図形の罠にかかりそうなのはやはりアイコン系だろう。文字でなく図形として迅速にユーザーに情報を届けるためのアイコンだが、うまく作らないとユーザーに適切に認識してもらえなくなる。特に難しいのはそのゲーム独自のアイコンだろう、例えばゲーム内で登場する特定の集団のシンボルやモンスターの素材などである。それらは現実には存在しないため、普段から私たちが利用しているアイコンに当てはめることができない。よってオリジナルのアイコンを作成して、それをユーザーに覚えてもらう必要がある。元々のアイコンから表しているものをどれだけ違和感なく伝達することができるかがデザイナーの腕の見せ所だろう。

まとめ

ゲームはプレイヤーが求める体験を適切に提供するものであり、それらを達成するために各種情報は適切に伝達する必要がある。そのためにアイコンなどの小さな素材もしっかりとプレイヤーに情報が伝わるように作成し、本来のゲーム体験にプレイヤーが集中できるようにしたい。

関連

ゲーム作りにおいて、序盤でプレイヤーにかかる認知負荷を減らす方法を考える - gametips

ゲーム作りにおいて、プレイヤーにして欲しい体験を定義することの重要さを整理する - gametips

参考

Rabbit–duck illusion - Wikipedia

多義図形(たぎずけい)とは - コトバンク

 

ゲーム作りにおいて、序盤でプレイヤーにかかる認知負荷を減らす方法を考える

初めてゲームを遊ぶプレイヤーにとって序盤は覚えることが多く大変だ。

そこで今回はどのようにしたらそれらの負荷を減らし、自然に物事を学習できるかを考える。

ゲーム序盤は覚えることが多い

ジャンルを問わず、基本的にゲーム序盤は覚えることがとても多い。キャラクターの移動方法から始まり、アイテムの拾い方、戦闘システムのルール、戦闘コマンド、各種スキルの内容、ゲーム攻略に必要なヒントなど新しい情報が怒涛のように押し寄せてくる。これらの情報を覚え切れるのならば良いのだが、覚え損ねてしまったり、情報を見つけられないまま進んでしまったりしたら大変だ。

プランナーは当然それらの情報をプレイヤーが覚えてくれている想定で仕様を切っているのだが、その前提が崩れてしまうため、プレイヤーにして欲しいゲーム体験を適切に提供できない可能性が出てくる。プレイヤーが覚えたり、理解したりするのに疲れてしまい、そのまま離脱してしまうこともあるだろう。

余談だが私はSEKIROの序盤の説明をよく読まないまま飛ばしてゲームを始めた結果、○ボタン長押しで走ることができることを知らず、結局ストーリークリアしてから気づいたことがある。とても辛い体験だった。

ゲーム序盤のプレイヤーにかかる負荷を減らすには

ゲーム序盤は覚えることが多く、それがプレイヤーにとって負荷となり、ゲーム体験を損ねたり、離脱の原因になったりすることがあると説明した。ではできるだけ負荷を下げるためにどのようなことができるかを考える。

負荷対策その1 覚える情報を減らす

そもそも覚える情報が少ないならそれに越したことはない、10個覚えるより5個覚える方が楽なのは自明だろう。プレイヤーが覚える必要のあるもの、覚えてもらいたいものを一度整理し、本当にそれらが必要なのか、まとめたり代用したりできないのかを考える。

一般的な知識を活用するのも良いだろう。例えば閉ざされている宝物庫を開けたい場合に"緑のクリスタル"と"宝物庫の鍵"とではどちらが宝物庫を開けることができそうかを考える。これは後者だろう、もちろん緑のクリスタルで宝物庫を開けるように作ることはできるが、それだと緑のクリスタルで宝物庫が開くことをどこかで知っておく必要がある。この宝物庫が物語上特別な立ち位置にあるならそのような変化球でも良いかもしれないが、そうでない場合は一般的な知識でわかるようにした方が良い。扉を開けるのは鍵であり、火を消すのは水であり、任務を達成するためには北に向かう必要があるのだ(これは違う)。

負荷対策その2 リマインド機能を実装する

ロード画面や休息タイミングなどで基本的な情報のリマインドを行う。情報の見落としを防ぐとともに、定期的に情報に触れてもらうことで記憶の定着にも繋がるだろう。

負荷対策その3 機能を段階的に解放する

キャラクターの能力に制限をかけることで、その時に覚えて欲しい事柄に集中してもらう。例えばキャラクターが4個の特殊能力を持っており、それらの使い方がスライドにまとまって出てきておしまい、などであったら何度もスライドを見返す羽目になるだろう。またSEKIROの話になるが、このゲームの最序盤は移動しかできない。ここでジャンプ、しゃがみ、張り付き、ぶら下がりなどの基本的な移動の動作を学習する。攻撃ができないのでプレイヤーは移動の学習に集中することができる。

負荷対策その4 必要になった時に情報や機能を解放する

その3と近い部分があるが、覚えるべき事柄が必要になったまさにその時に機能を解放するのである。人は必要に駆られたときの方がそれらの物事の学習効率が良いことがわかっている。例えば鍵のかかっている部屋から出るためには宝箱から鍵を取得しないといけないとする。この情報をキャラクターが部屋に閉じ込められている時に聞くのと、村の広場で聞くのでは前者の方がより記憶に残るだろう。

実際のゲームだとゼルダの伝説BOTWが良い例だろう。このゲームではシーカーストーンというアイテムに特殊能力を追加し、それらを利用して謎解きをしたり、ゲームを有利に進めたりするのだが、序盤は全ての能力が使えない状態になっている。その能力が必要になったタイミングで入手し、それをすぐさま利用して謎解きをすることで、しっかりと学習してもらう、ということだ。

まとめ

序盤でプレイヤーが無理なく学習するにはどうすれば良いかを考えてみた。せっかくプレイヤーに楽しんでもらえるようにゲームを作ったのだ。序盤でつまずいて離脱されてしまうようなことは避けたい。

関連

ゲーム作りに使える心理学【上昇選好】 - gametips

 

ゲーム作りに使える心理学【上昇選好】

ゲーム作りに使える心理学として上昇選好を紹介する

上昇選好とは

人は連続して何かしらが連続で起きる時に、それらの満足が拡大することを好む、ということである。

日常の上昇選好

上昇選好は給与やお小遣いの金額の変遷を例に挙げるとわかりやすいだろう、私たちはこれらの金額が上がると喜び、下がると嘆く。面白いのは元々の金額の大小は関係ないところだ。前の値と比べてどうなっているかが重要である。

ゲームにおける上昇選好

ゲームには多くの成長要素が含まれている、RPGの場合はキャラクターや武器の各種パラメータの値の上昇、新しい仲間や、スキル、アイテムの獲得だろう。基本的にプレイすればするほどキャラクターは強くなっていく。また、格闘ゲームや対戦FPSなどキャラクターの能力値をプレイ時間などで大きく変更することが好ましくない場合は、称号や煌びやかなレアスキンなどで満足度が上がるようになっていく。ソーシャルゲームなどは持っているレアカードの枚数、プレイヤーランク、称号、マイホームのスキンなどがあるだろう。

あと忘れてはならないのはゲームプレイをすることでそのゲームに対してのスキルが向上することがある。スキルが向上すれば、今まで倒せなかった敵を倒すことができたり、今までいけなかったステージまで到達することができたり、ハイスコアを取ったりすることができるようになる。

これらの要素によりプレイヤーは遊ぶほどゲーム内で成長し、上昇選好により満足を感じるようになる。

ハマるゲームは成長のタイミングの提供が上手い

ゲームは現実と比べて成長が簡単であることが多い。スポーツ、楽器、勉学などと比べてある程度時間をかければある程度のところまで成長できる。今時のRPGに限って言えば時間さえかけさえすれば誰でもクリアできるだろう。スキルを必要とするものの場合も、時間をかければキャラクターを強化でき、クリアしやすくなる仕組みを入れているところも多い。さらに成長を感じるまでの期間もリアルの活動と比べて短いだろう。もちろんe-sportsのような例外はあるのだが。

ここでハマるゲームはこの上昇選好を刺激するための成長のタイミングのスパンがちょうど良いのではないかと考えた。例えば序盤はプレイヤーが覚えることが多いため、難しい課題は配置せず、簡単に終わるものを用意する、そして何かあるたびにプレイヤーを褒めるのだ。褒める方法はランクアップでもNPCに褒めてもらうでも、なんならファンファーレ一つでも良い。そしてゲームが進むたびに成長要素を少しずつ省いていく、ただし、ずっと体験が平坦なものにならないように、地点地点でしっかりとした成長体験を与える。RPGで例えると中ボスの撃破や新しい仲間の参入、転生や転職で大幅パラメータアップなどだろう。

プレイヤーは小さな成長体験の積み重ねと時々発生する大きな成功体験を感じながらゲームを進め、その集大成として世界を救うなどの最大の成長体験をするのである。

ゲーム作りでの応用その1 断続的な成長

まずはプレイヤーに断続的な成長をしてもらうことが重要だろう。ゲームプレイで成長を感じることができなくなるとプレイヤーはゲームをやる価値を削がれていくだろう。

ある程度ゲームをプレイしたら、何かしらのパラメータを成長させたり、アイテムをあげたりできると良いだろう。

ゲーム作りでの応用その2 各種パラメータの見える化

各種パラメータの見える化をすることも成長体験を刺激することに役立つ。キャラクターのパラメータは当たり前だが、今まで倒した敵の数やプレイ時間、移動距離など特にキャラクターパラメータにあまり関係ないものでも効果があるだろう。これらは基本的に積み上がり系のものが良い、例えば所持金だと使ったら減ってしまうが、今まで獲得したお金の総額だと、積み上がるばかりになる。つまりゲームをプレイするたびに成長するパラメータだ。これらの変遷をグラフで見たり、カードで一括でみることができるようになっても面白いかもしれない。

ゲーム作りでの応用その3 序盤における成長機会を増やす

言うまでもなくゲーム序盤は重要だ。プレイヤーはこのゲームが面白いかどうか、この後も続けてゲームをするべきかを無意識に考えている。ここでプレイヤーに小さな成功体験を積み重ねてもらうことで、プレイヤーにこの世界でもうまくやっていけそうだ、と考えてもらう。例えばお使いなどがそうだろう、ほぼ移動と簡単な戦闘で済むこのクエストはプレイヤーに小さな成功体験をしてもらうのと、ゲーム上の重要な操作である移動、戦闘を覚えてもらうのにも役立つ。他には、キャラクターのできることに制限をかけることも序盤でできる成長機会を増やすことができる。キャラクターのスキルにそれが必要になるタイミングまで制限をかける。そして必要になった時に解放するのだ。今までできなかったことが出来るようになったと言う満足とともに、新しいスキルの学習効率も上がる。

まとめ

良いゲームは成長を感じる機会をうまく提供しており、それは要素の足し算だけではなく要素の引き算や既存のパラメータの見える化などでも実現できる。

ゲーム作りに使える心理学【サンクコスト/コンコルドの誤謬】

サンクコストとコンコルドの誤謬をゲーム作りにどのように応用できるかを考える

サンクコストとは

Sunk costと書き、日本語では埋没費用と表される。ある物事に投下した時間、資金、労力などのうち、元に戻すことのできないもののことを表す。例えば、遊園地のチケット代や、何かしらの学習を行った時に利用した時間などが挙げられる。

サンクコストとコンコルドの誤謬

コンコルドの誤謬とは、すでに投下し、かつ回収できないコスト(サンクコスト)に執着して、これ以上のコストの投下が損失に繋がるにもかかわらず、それを続けてしまう状態である。この名前は超音速旅客機コンコルドの商業的失敗から由来する。

コンコルドの誤謬は日常生活にも見てとることができる。例えば食べ放題で、これ以上食べても気持ち悪くなってしまうのがわかっていても、料金の元を少しでも取ろうと食べ過ぎてしまったり、映画館で序盤だけ見て、つまらないと思ってもそのまま見続けてしまったりする。

ゲームにおいてのコンコルドの誤謬

ゲームにおいてもコンコルドの誤謬がみることができるだろう。ゲーム本体を購入したり、サブスクリプションや、ゲーム内アイテムを購入したりするためにに利用した資金、そのゲームをプレイするのに利用した時間、労力などを惜しんであまり面白いと思っていないゲームをだらだらと続けているユーザーはいる。そして、ゲームを続けるたびにサンクコストが嵩んでいき、よりゲームをやめるわけにはいけなくなる。この傾向は一般的なコンシューマーゲームと違って、終わりがないと言われるソーシャルゲームに多くみることができる。

ゲームにおけるコンコルドの誤謬の応用

ではこれをゲームにどのように応用できるかを考えてみる。まずはゲーム内資産の見える化だ。ゲーム内マネー、プレイヤーランキング、ギルドランキング、称号、達成項目、ゲーム内アイテム、装備などをきちんと確認できるようにする。できればホーム画面でわかるようにするか、ホーム画面から浅い階層で確認できるようにすると良いだろう。そうすることで、プレイヤーが自分がどれだけコストをかけてこのゲームを遊んできたかを認識できるようにする。

他にはプレイヤーに定期的にゲームを遊んでもらうようにすることだ、ソーシャルゲームで多いが、ログインボーナス、push通知、定期イベント、などがあるだろう。また、ゲーム開始時に小額でお得なゲーム内課金アイテムを購入してもらう、というのもある、小額でも金銭的コストを払ってもらえば、それがサンクコストとなり、ゲームをプレイする動機になる。

まとめ

今回はサンクコスト/コンコルドの誤謬とそのゲームでの応用を考えてみたが、この心理バイアスを発生させようと過度にプレイヤーに対してコストを払うことを要求することはやってはいけない。なぜならばコンコルドの誤謬によりゲームを続けているプレイヤーは面白いからやっているのではなく、辞めたいけど辞められないという心理でやっているからだ。それはゲーム本来の目的であるプレイヤーの求める体験を提供する、というものに沿っておらず、プレイヤーに負担をかけるだけのものになってしまう。

私たちもコンコルドの誤謬に囚われず、惰性でやっている面白くないゲームや習慣を一度棚卸をして、新しい何かを初めてみるのも良いだろう。

関連

ゲーム作りにおいて、プレイヤーにして欲しい体験を定義することの重要さを整理する - gametips

参考

埋没費用 - Wikipedia

コンコルド効果 - Wikipedia

 

ゲーム作りと知覚の差異

人々がある物事に対しての知覚に差異があることを前提にそれらをゲーム作りにどのように応用して行けるかを考える

知覚とは

外部から何かしらの刺激を受け取った時に、それがどのようなものであるかを判断すること。例えば、火に手をかざしてあったかいと感じること、花を見てきれいだと感じること、文字を見てその意味を理解することなどである。

本能的な知覚と知識を介する知覚

知覚には大まかに分けて2種類の知覚があると考える。それは本能的な知覚と、知識を介する知覚である。本能的な知覚とは、特別な前提知識が必要なく、例外をのぞいて万人が感じることができるものである。例えば氷を触って冷たいと感じる、大きな音を聞いてうるさいと感じる、暗闇の中で何も見えないと感じるなどである。対して知識を介する知覚とはは、ある物事を知覚するために前提知識が必要なものである。例えば文字は、それを読み理解するために記述されている言語に対する知識が必要となる。仮に前提となる知識を持っていない場合、文字は何やら良くわからない形状の並びとして認識されるだろう。

知覚は必ずしも万人共通のものではない

人は自分が感じていることは相手もほとんど同じように感じるものだと思い込みがちだが実はそうではない、人々がもつ知識や体験の記憶は決して共通のものではないからである。先ほどの文字の例でも挙げたが、あるものを認知するための前提となる知識がなければ、それらは正しく認知されない。

この知識を介する知覚の差異は日常の様々なところに見てとることができる。

例えばあなたの身の回りに特定の分野において造詣が深い人はいないだろうか、彼らはその特定の分野において時に私たちを驚かせるほどの知覚能力を発揮する、電車を一目見てその車番を当てる人、CMで流れているナレーションから声優を当てる人、お酒を一口飲んでその銘柄を当てる人、星空から星座をすぐさま見つける人などである。彼らは持ち前の知識と体験によって他の人たちよりも深いレベルでその分野を知覚することができる。

大人と子供でも知覚に差異が出てくる、子供は持っている知識と経験が少ないため、大人と比べ、知覚の仕方に違いが出てくる。初めて街に出た子供がマンホールを見つけたとしよう。大人はその経験からこれはマンホールであると知覚するが、子供はその知識を持っていないのでそれをマンホールだと知覚できない。

知覚の落とし穴

ここまで知覚と、それらは私たちにとって必ずしも共通のものではなことを説明した。この知覚の差異は相手に何かを伝えようとする時に障害となることがある。物事を伝える時に相手に知覚するための適切な知識や経験がない場合、それらはうまく伝わらなくなることがあるからだ。日本語が読めない外国人にとって日本語の案内看板は目的地を伝えることができず、数学者が話す微分の面白さは数学の知識がない人たちにはうまく伝わらないだろう。

ゲーム作りと知覚

やっとゲーム作りに関しての話をする。これらの知覚の差異とその落とし穴はゲーム作りにおいても気をつけるべき項目となる。自分の知覚と他人のそれとの差異を適切に認識していないと、自分だけが面白く、他の人が全く面白くないものができる。

例えばあるゲーム体験を作ろうとして、その体験が別の知識や体験がないと知覚しづらい場合、その前提となる知識、体験を持っていないユーザーにはそのゲーム体験を適切に提供することができなくなる。

まとめ

自分が伝えたい体験は万人が感じる事ができるものなのか、それとも特定の知識、体験を前提にするものなのか、ターゲットユーザーはその前提知識、体験を持っていそうなのか、などを切り分けてゲーム体験を組み立てていきたい。

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