gametips

ゲーム作りに関するあれこれ

ゲーム作りに使える心理学【自己決定理論:関係性】

今回は自己決定理論の関係性について掘り下げる

ゲーム作りに使える心理学【自己決定理論】 - gametips

関係性のおさらい

自己決定理論における内発的動機づけの根底となる欲求の一つ。他者と社会的に繋がりたい、という欲求。 

なぜ関係性がある行為に対して動機づけが行われるのか

人が関係性を重視することは、人類の進化の歴史をたどれば理解しやすい。人は一人で生存することは難しく、群れを作って様々な困難に立ち向かってきた。その中で他者と関係を築くことは群れの中で生き残るためには重要なスキルだっただろう。つまり人が他者との関係性を求める性質は古来の厳しい環境を生き抜くための適応の結果なのだ。

ゲームにおいて関係性を感じてもらうためには

ゲーム内でプレイヤーに関係性を感じてもらうためには、意義のある社会的交流を提供することが重要である。その具体的な方法を協力、対戦の2つの側面から考えてみる。

協力プレイにおいての関係性

協力プレイや競い合って同一の目標を達成しようと行動することは、関係性の欲求を満たすために役立つだろう。モンスターハンターなどの4人で協力してモンスターを倒すことは、さながら狩猟採集社会での狩りのようだ。

このような活動でより意義を感じるために、どのようなことができるだろうか。それはその集団に自分がいることによるメリットを明確に理解できる、ということだ。例えばMMORPGの役職分けがそうだろう、攻撃が得意なアタッカー、防御力が高いタンク、回復が得意なヒーラーなどが自分自身の役職を全うすることでゲームをクリアした場合、その時感じる満足感は高いものになるだろう。自分がいることで群れの全体生存率を高め、貢献したと感じるのである。

ゲーム内におけるギルドやクラン機能も関係性を感じてもらうために役立つだろう。同じ場所に集い、協力を重ねるごとにプレイヤー同士の交流は密になり、より大きな関係性を感じることができる。

ゲーム内で、フレンドやギルドメンバーの状況を詳しく確認できるようにすることも、関係性を感じるための一つの方法であるだろう。いつログインしたか、どのような装備を手に入れたか、どのような称号を手に入れたのかを通知する。人は元来隣人を気にする生き物である。メンバーのステータスを確認するためにログインするプレイヤーも居るだろう。

対戦プレイにおいての関係性

対戦することでもプレイヤーの関係性を満たすことができるだろう。鬼ごっこやかくれんぼ、だるまさんが転んだなど、それぞれ対立する立場を演じながら楽しむ遊びは多いだろう。対戦で勝利したプレイヤーないしチームはは有能感を感じることができ、それを求めて何度も対戦を繰り返すプレイヤーも多い。

しかし、対戦プレイでは協力プレイと比べて気をつけることが多いだろう。それは勝利して満足するプレイヤーが限られてくるのだ。たとえばバトロワ系ゲームだと勝つのはたった1人、もしくは1チームで残りの大半は敗北することになる。ほとんど勝利できないプレイヤーも多いだろう。この時問題になるのは負けがちなプレイヤーの離脱である。何度プレイしても対戦に負けて有能感を得ることが出来ないのならば、そのゲームに対する動機づけを失ってしまうためだ。格闘ゲームバトロワ系ゲームのように純粋なスキル対決の場合はまだ良いが、それが装備などのどうあがいても勝ちを拾えないようなものならばなおさらだろう。

そしてプレイヤーが減ったゲームは徐々に衰退していくのである。

この時気をつけるべきことは、まず適切なマッチングだろう。スキル差、装備差が出ないように、それぞれ親しい相手同士とマッチングするようにするのだ。そうすればプレイヤーにとって対戦が適切な難易度となり、動機づけを保つことができるだろう。

他にはゲーム終了時にプレイヤーを細かい項目で褒めることも有効だろう。たとえばオーバーウォッチではゲーム終了後にゲーム内で一番良い行動を行ったプレイヤーを動画付きで褒める。これは勝敗に関係なく決められる。また、チーム内で自分がどれだけチームに貢献したかをランキングと数値で褒めるのだ。敵に与えたダメージはチームで1位、敵を倒した数はチームで3位、などである。こうすれば仮に負けたとして自分がこれだけチームに貢献できた、このくらいの能力を持っていると動機づけを保つことができるのだ。

まとめ

今回は自己決定理論の関係性を掘り下げてみた。

私達は現代になっても、今まで受け継がれてきた生物としての社会的欲求に縛られ、それを求めている。人が集まるゲームを作るときはどれだけプレイヤーによって居心地の良い居場所を提供できるかが、重要になってくるだろう。

関連

ゲーム作りに使える心理学【自己決定理論】 - gametips

参考書籍

 

ゲーム作りに使える心理学【自己決定理論:自律性】

今回は自己決定理論の自律性について掘り下げてみる

ゲーム作りに使える心理学【自己決定理論】 - gametips

自律性のおさらい

自己決定理論における内発的動機づけの根底となる欲求の一つ。自分自身で行動を決めたい、という思い。

ゲームにおいて自律性を感じてもらうためには

自律性は、自分の意思で行動している感覚を与えることで感じてもらえるだろう。具体的にどのようなものがあるかを紹介する。

自律性とサンドボックスゲーム/オープンワールド

プレイヤーが自律性をより強く感じることができるゲームジャンルはマインクラフトに代表されるサンドボックス系ゲームだろう。これらのサンドボックスゲームは目標こそあるが、絶対のものではない。ゲーム内で何をするか、何を目標にするのかはプレイヤーに委ねられているのだ。このことはマインクラフトの実況動画を見ることで確認できるだろう、とあるユーザーはひたすら建造物を作り、他のユーザーは演算器を作成し、また別のユーザーは音楽を奏でている。マインクラフトというソフトの共通点はあるが、中で何をするのか、何をしたいのかはプレイヤー次第なのだ。この要素はプレイヤーの自律性をよく刺激するだろう。

オープンワールドも自律性を刺激するものだろう。オープンワールドもその性質上プレイヤーに様々な選択肢を提供する。プレイヤーはそれらの中から自分がやりたいことを見つけ、ストーリーそっちのけで行動する。これもグランド・セフト・オートVの実況動画を見ればわかるだろう、ストーリーそのものを実直にすすめているものは少なく、Modで遊んだり、ユニークな実験をしているようなものが多い。

自律性と選択肢の多さ

自律性とゲーム内で取れる選択肢の多さには相関がある。取れる選択肢が多いほどプレイヤーは自分で決めることができるため、自律性を刺激することができる。しかし、選択肢をただ増やせばよいということはない。選択肢それぞれに対してプレイヤーがやる意義を見いだ差ない場合、それらの選択肢は有益になるどころか有害になるだろう。

例えば、ストーリーの水増しで似たようなサブミッションを大量に作成することを考えてみる。このときプレイヤーにはストーリーを進めることとサブミッションをすすめることと選択肢ができることになるが、そのうちサブミッションは意義のある選択肢ではなくなるだろう。似たようなストーリー、似たような敵、似たような報酬が繰り返されればプレイヤーはサブミッションに対して新鮮さを感じることはなくなる。プレイヤーはツァイガルニク効果により物事を完結させようとする動機づけがあるが、水増しのサブミッションはその障害になってしまう。

プレイヤーにとって有意義な、そしてやりたい物事があってその中から自分の意思で選択するからこそ自律性が刺激されるのだ。

良い自律性に対する刺激の例 メタルギアソリッド

メタルギアシリーズは自律性を感じさせるためにの要素がある。それは敵に見つかったときにプレイヤーが行う、戦うか逃げるかの選択だ。どちらの選択肢も自分自身を守るための意義のある行動である。プレイヤーは見つかった時自分自身がおかれている状況を瞬時に判断し、行動を決定する。これが自律性を刺激するのだ。

良い自律性に対する刺激の例 侍道

侍道も良い例だろう。このゲームには敵対する派閥がいくつか出てくるが、プレイヤーの行動により、どの派閥に与するかを決めることができる。ゲーム内の細かい判断の積み重ねがプレイヤーの立ち位置を決めるのだ。

まとめ

プレイヤーがゲーム内で取れる行動の中から行いたいものを選択し、実行することで自律性を感じることができる。ただし、その選択肢はどれもプレイヤーにとって意義のあるものであることが条件である。

関連

ゲーム作りに使える心理学【自己決定理論】 - gametips

ゲーム作りに使える心理学【ツァイガルニク効果】 - gametips

参考書籍

 

ゲーム作りに使える心理学【自己決定理論:有能性】

今回は以前紹介した自己決定理論の有能性の部分について掘り下げる

ゲーム作りに使える心理学【自己決定理論】 - gametips

有能性のおさらい

自己決定理論における内発的動機づけの根底となる欲求の一つ。自分のが能力があると感じたい思い。

ゲームにおいて有能性を感じてもらうには

有能性の欲求を満たすには、以下の感覚をプレイヤーに与えることが重要である

  • 制御感
  • 進行感
  • 習熟感
制御感

自分がゲーム内の物事をコントロールできる、という感覚である。

この物事はどんなに小さいことでも良い、マリオがジャンプしてブロックを壊すのも、ゼルダが剣を振って敵を倒すことも、インクリングがインクを発射して壁を塗るのも、コントロールしている感覚を与える。なにか物事に対してその難易度こそあれ自分が思ったとおりに影響を与えることができればよいのだ。

キャラクターの能力を知り、それがゲーム内の世界に影響を与えることが確信できた時、プレイヤー制御感を持つ。

ゲーム内のフィードバックを工夫すればこの感覚をより強化できるだろう。具体的にはフィードバックの速さとわかりやすさだ。スーパーマリオブラザーズのブロック壊しが良い例である。

まず速さだが、マリオがジャンプしてブロックを壊したときにブロックは瞬時に壊れるだろう。この瞬時に壊れることはマリオがそのブロックを壊したことを明確に表している。仮に、マリオが叩いてから5秒後にブロックが壊れたのならプレイヤーは自分が壊したのか、それとも時間やマリオの位置など、違う条件で勝手に壊れたのかわからないだろう。

次にわかりやすさだが、ブロックが壊れるときにブロックは破片となり四方に飛び散る。この演出により、マリオが力強い力でブロックを叩き割ったということがより強調される。これもブロックが透明にフェードアウトしたのなら叩き割ったという感覚が薄れるだろう。

とにかく、キャラクターのアクションとそれがゲーム内に与える影響を疑う余地なく明朗にプレイヤーに提示することが重要である。

フィードバックの他にキャラクターのペルソナ設定でも、制御感を出すことができるだろう。スパイダーマンバットマンがわかりやすい。彼らはヒーローであり、スキルをもっていることは疑いの余地がない。プレイヤーは彼らをコントロールすることで自分も同様にゲーム内の世界をコントロールできると感じる。

進行感

物事がより良く進んでいる、という感覚である。

ゲームでは進行感を感じるイベントがたくさんある。例えばポケモンでジムリーダーを倒したり、モンハンで新しいクエストを受注できるようになったり、ゼル伝マスターソードを手に入れたりした時がそうだろう。

他には、すでにあるものがより良くなることにも進行感を感じさせることができるだろう、具体的にはHPなどのパラメータアップ、新しいスキルの取得などである。

進行感を出すために重要なことは、進行の見える化だ。ゲーム内で何かが進行したとしてもその演出がなかったり、演出がさっぱりしたものであればプレイヤーは新交換は出しづらい。RPGのレベルアップのときにただレベルが上った、といわずに具体的に力が○ポイント上がったと表現するのはそれぞれのパラメータが上がったことでキャラクターがちゃんと成長していると伝え、進行感を感じさせる役目もあるだろう。

また重要なボスに会った時、それを倒した時、新しいエリアに入った時、貴重なアイテムを入手したときにムービーなどの演出を挟むのも一つの方法だろう。プレイヤーはその演出によりゲームが進行していると感じる。

習熟感

ゲームがうまくなっていると感じる感覚である。

この要素もゲームにはたくさんあるだろう。例えば、今まで倒せなかった敵が倒せた時、格闘ゲームでコンボが決まった時、バトロワFPSで最後まで残った時、パズルゲームで最大連鎖を達成したときなどである。

今まで出来なかったことができるようになったことでプレイヤーは習熟感を感じることができるだろう。

習熟感を出すために重要なことは成長のためのフィードバックと成長の見える化である。フィードバックはプレイヤーの行動に対して何が良かったのか、何が悪かったのかを明確に伝える役目がある。良いことを褒めるフィードバックとしてはコンボを繋げるごとに演出が派手になる、FPSでヘッドショットを決めたときに小気味よい音がなる、ステージクリア後の画面でファンファーレがなる、などである。これらの演出を挟むことでプレイヤーに対してあなたは正しいことをしました、というメッセージを与える。悪いことを叱るフィードバックに関しては、ダメージを受けたときに画面が振動する、キャラクターがのけぞる、キャラクターがやられたときに画面が暗転するなどである。

フィードバックで重要なのはなぜその発生したのかをプレイヤーがきちんと認識できることである。なぜ褒められたのかわからない、なぜ叱られたのかがわからないままだとプレイヤーは自分の行動をどのように修正すればよいかがわからないためだ。

学力テストを受けて結果が返ってこなかったら自分の間違った問題を復習することも出来ない。

成長の見える化は、プレイヤーがどれだけゲームがうまくなったのかを伝える役目がある。勝率、最大コンボ数、称号、ミッション達成数などをプレイヤーに見えるようにして習熟感を感じてもらう。獲得や達成の節目でしっかりとプレイヤーを褒めることを忘れてはいけない。これは進行感と近いところもあるだろう。

まとめ

今回はプレイヤーに有能性を感じてもらうためにどのようなことができるかをまとめた。重要なのは制御感、進行感、習熟感をプレイヤーに感じてもらうことで、そのためにはフィードバックや演出が活用できる。

関連

ゲーム作りに使える心理学【自己決定理論】 - gametips

ゲーム作りに使える心理学【上昇選好】 - gametips

参考書籍 

 

ゲーム作りに使える心理学【自己ハーディング】

ゲーム作りに使える心理学として自己ハーディングを紹介する

自己ハーディング

自分自身の今で行った行動に基づいて、物事の善し悪しを判断すること。ハーディングのHerdは群衆の意。

日常の自己ハーディング

毎日の習慣は自己ハーディングの結果と言えるだろう。例えば出社前にコンビニでコーヒーを買う習慣がどのように確立されたかを考えてみる。どんな習慣であれ、必ず1回目があるはずだ。その時の気分は思い出せないかもしれないが、初めての出社前コーヒーを買った時点でその行動に自分自身がひとり集まる。そして出社前になにか飲みたいと思ったときに行動にすでに集まっている自分自身の数を参考にしてどの行動を行うのか決めるのだ。コンビニコーヒーに多く集まっていたら、その数をみてコンビニコーヒーを買うことを選択する、そして自分自身がひとり増える。

物事を繰り返せば習慣になるのは自己ハーディングで説明できる、過去に連続してやったことは過去の自分が選んだことのため、選ぶ価値がある、ということだ。

最初の1回の選択

自己ハーディングで面白いところは、最初の1回の選択が後ほどの選択に大きく影響するということだ。例えば3つの選択肢があったときに気まぐれで、1つ目を選んだとしよう、次に同じ選択肢から物事を選ぶときにそれぞれの選択肢に集まっている自分自身を見てみると1つめに1人いる状態である。このことから過去の自分が集まっている1つ目の選択を選びやすくなる、何度も繰り返して1つ目の選択肢に集まっている自分の数が多くなればもはやひっくり返すことは困難になってくるだろう。最初の1つ目を選んだときの気分がそれ以降の選択に影響してくるのだ。

例えば、初めて飲んで美味しいと思ったお酒の銘柄が好き、スマホOSは初めて買ったスマホのOSと同じものを使い続けている、一人暮らしで初めて買った米のブランドを買い続けている、初めて落としたスマホゲームは結構続けている、などがあるだろう。

ゲームにおける自己ハーディングの活用

ではこのゲームにおいてこの自己ハーディングを活用するためにはどうすればよいかを考える。

自己ハーディングの活用  序盤の繰り返しを重視する

何回もプレイしてもらえば自己ハーディングによって更に遊んでもらえるようになる、ということは最初の数回を連続してプレイしてもらえればよい、ということだ。そのためにできることはいくつが考えられるが、まずプレイするためのハードルを下げることだろう。具体的には手軽にプレイ開始できる、起動してからゲームプレイまでが早い、1回のプレイがそれほど重くないことだ。他には序盤に複数回起動に対する動機づけを行うことだ。これはソーシャルゲームが良い例だろう。体力システム、ログインボーナス、定期的なイベント開催などがなどである。

自己ハーディングの活用 番外編 最初の1回目に選んでもらえるようにする

プレイヤーに遊んでもらえる初めてのゲームになると、自己ハーディングによって継続して遊んでもらえる可能性が高くなるだろう。別に人生で初めてプレイしてもらえるゲームにならないといけないわけではない、スマホで遊ぶ初めてのゲームでも良いし、初めて遊ぶパズルゲームでも良い。

例としては、携帯電話にプリインストールされているゲームが挙げられる。携帯電話で暇を潰したいと思ったときにすでに入っているゲームを選択肢、そのまま遊び続ける、ということだ。

ほかにうまくやっているのは任天堂だろう。今でこそスマホアプリゲームが流行ってきたが、それより前は初めてプレイするゲームは任天堂のゲーム、もしくは任天堂のハードで遊んでいたという人は多いのではないだろうか。そうして任天堂は子供やゲームをあまりプレイしてこなかった大人たちの初めてのゲームブランド、ということになり今後も選ばれやすくなる。

まとめ

自己ハーディングにより人は最初に選択した行動に大きく影響を受け、その影響は回数を重ねるごとに強化される。

ゲームではプレイのはじめやすさと序盤の何度もプレイする動機づけを意識するとよいだろう。

参考書籍 

 

ゲーム作りに使える心理学【認知的不協和】

ゲーム作りに使える心理学として認知的不協和を紹介する

認知的不協和

人が心のなかで矛盾する認知を抱えると不快感を感じること。アメリカの心理学者のレオン・フェスティンガーによって提唱された。

日常にある認知的不協和

喫煙に対する認知がわかりやすいだろう。

殆どの喫煙者はタバコが健康に良くないことを知っているが、そのことと喫煙する自分の間に認知上の矛盾が発生する。この時人は認知的不協和を感じ、その矛盾を解消しようとする。タバコの場合、禁煙するか、タバコを吸うという行動の正当化である。

自分が手に入れることができないものを攻撃することも認知的不協和の症状の一つだろう。お金が稼げないから、お金持ちは心が汚い奴ばかりと非難したり、自分より学歴が高い人を、勉強しかできない奴と揶揄したりすることである。

すっぱい葡萄

認知的不協和を表す例としてイソップ物語のすっぱい葡萄がある。これは木の上に美味しそうな葡萄が実っているのを見つけた狐が、それを食べようと試行錯誤するが手に入れることができず、結果 "あんなのはすっぱい葡萄だから食べない" といってどこかへ行ってしまう、という話だ。これは対象の手に入れることのできない対象に対する否定で認知的不協和を解消しようとした行動である。

すっぱい葡萄とは逆に、すでに持っているものを正当化することで認知的不協和を解消する方法がある。これはすっぱいレモンを甘いと思いこむということから、甘いレモンと表現されることがある。

認知的不協和は悪か

認知的不協和を考えることが悪いことではない、認知的不協和は人間が普通にもつ心理バイアスである。むしろ手に入れることが難しいものを否定したり、今あるものに満足したりすることで、体力や時間などの貴重な資源を消費しないようにするための適応の結果とも言える。

狩猟時代など今よりももっと生きることが難しかった時代ででは不必要な行動を起こさず、手に入れることができるものを確実に手に入れたほうが生き残る可能性が高かっただろう。

もちろんそれが行き過ぎて生活に支障がでたり、他人を攻撃し始めたりすると問題となるが。

ゲームと認知的不協和

ゲームは基本的に生産性のない活動である。竜王を倒しても健康になるわけでも、お金が稼げるわけでもない。私はゲームは趣味なので生産性を求めること自体おかしいと考えている。

ここで気にするべき点はゲームはやめても特にリスクはない、ということだ。つまりゲームに対して何かしらの認知的不協和が発生した場合、プレイヤーはそのゲームのプレイを止める、という行動を取りやすくなる。

ゲームに対する認知的不協和を避けるには

ゲームに対して認知的不協和を感じ、やめてしまわないようにするためにはどうすればどうすればよいかを考える

認知的不協和の避け方 その1 適切な難易度設定

まずはゲーム自体を適切な難易度にすることだ。なぜならばゲームが何回やってもクリアできなかったり、すべてのステージをなんの苦労もなくクリアしてしまえばプレイヤーはその作業そのものに魅力を感じなくなってしまう。

人は難易度の高すぎるタスクに対して労力を投入するにはコストが高すぎると考え、難易度の低すぎるタスクにたいしてはいつでも手に入るので今やることではないと考えるのだ。

認知的不協和の避け方 その2 適切なフィードバック

適切なフィードバックは重要である。自己決定理論でも紹介したが、フィードバックを適切に与えることで、プレイヤーの内発的動機づけを刺激することができるためだ。

フィードバックの基本はプレイヤーが好ましい操作を行ったら褒め、逆の好ましくない操作を行ったら叱る、ということだ。また、プレイヤーの個々のアクションに対してゲームがちゃんと反応することも重要である。

フィードバックが適切でない、もしくは著しく遅い作業に対して人は動機づけされづらいのである。

ゲームでの認知的不協和の活用

認知的不協和はゲームのプレイを止めてしまう危険性があるが、逆にこれを利用してゲームプレイに対する動機づけを行うこともできるだろう。

認知的不協和の活用 その1 謎を仕込む

ゲーム内で謎を仕込むこととで認知的不協和を発生させ、それを解消するモチベーションをプレイヤーにあたえる。例えばRPGでしっかり整備されていて村人の服も小綺麗なのに、村人が全員気力がないような話し方をしていたらどうだろうか。プレイヤーは村が栄えていることと村人の気力がないことに認知的不協和を感じそれを解消しようとするだろう。

使い方としてはプレイヤーがこうなっているだろう、と思っている予想を裏切ることである。もちろん予想を裏切ったあとできちんとそれらを収める必要はあるが。

認知的不協和の活用 その2 適切なタスクの提示

ゲームのその時々でちょっと努力すれば達成できそうなタスクを提示する。そうするとプレイヤーは少しの作業で手に入る報酬と、作業しない自分に対して認知的不協和をかんじるだろう。そしてその解消のために報酬を手に入れようとゲームをプレイするのだ。

認知的不協和の活用 番外編 ゲームの社会的地位を向上させる

最近は改善してきたが、まだゲームで遊ぶことに対して否定的な考え方をする人は多い。これらの否定的な考え方はプレイヤーに対する認知的不協和につながる。プレイする自分と、ゲームはバカになるというような俗説が認知の矛盾を引きおこすからだ。

ゲームは素晴らしいと手放して称えるわけではないが、目の敵にするほど悪いものでもないと言うのが私の考えだ。

せめてゲームを遊ぶときくらい、後ろめたさは感じないようにできればと思っている。

まとめ

認知的不協和は使い方によってゲームに対する動機づけを上げたり、下げたりすることができる。用法用量を守って使っていきたい。

関連

ゲーム作りに使える心理学【外発的動機づけ、内発的動機づけ】 - gametips

ゲーム作りに使える心理学【自己決定理論】 - gametips

参考

認知的不協和 - Wikipedia

参考書籍

 

ゲーム作りにおいてのフラッシュアイデアの扱い方を考える

今回はゲーム作りにおいてフラッシュアイデアが湧いたときにどのように扱えばよいかを考える

フラッシュアイデア

その場で思いついた案のこと。ジャストアイデアとも言う。素晴らしい閃きのことを表すこともあるが今回はただ頭に思いついた案として扱う。

フラッシュアイデアが湧く時

自分達が開発しているゲームをプレイしているときやぼーっとしている時にフラッシュアイデアが湧くときがある。この部分をこうしたらもっと良くなるじゃないか、という具合である。パッと思いついたその案はとても良いものに見え、今すぐにでもデザイナーやエンジニアに仕様変更をお願いしたい気持ちである。

フラッシュアイデアが持つ危険性

フラッシュアイデアを思いついたその勢いに任せて採用しようとするのは危険である。なぜなら思いついたその案は基本的に使えないものであるからだ。アイデア出しをすればわかるが思いつきで並べたそれは9割以上使えないものだ。そのフラッシュアイデアも使えない可能性が高い。

また、フラッシュアイデアを採用する上で開発現場を混乱させるリスクがある。そのアイデアが現在の仕様に対しての変更である限り、改修を行うためのコストが発生する。プランナーがふと思いついたその仕様を適用するためにはデザイナー、エンジニア換算でその何十倍もの工数がかかることがあるのだ。

例えばコマンド選択式の戦闘があるゲームで、相手の行動を一回スキップするスキルがあったら良いと思ったとしよう。そうすれば強いボスに対して新しい戦い方の戦略が生まれると考えたからだ。

ではその改修にどのくらいの時間がかかるだろうか、これはプログラムの組み方によるが、仮に必ず全員が行動する前提でプログラムを組んでいた場合、それなりの工数が必要になるだろう。スキップの仕様を組み込んだ上で保守管理性を損なわないように改修するには戦闘システムそのものに対する大幅な変更が必要になるかもしれない、仮にパッチを当てるような形で改修ができたとしてもそれはツギハギの対応となり、今後の戦闘システムの改善工数や不具合の含有率に悪い影響を与えるだろう。もちろん戦闘システムの変更に対してテストコードを書き直したり、テスターの方々にテストをしてもらう工数もある。

デザインに関してもそうだ。プランナーがUIや3Dモデルに対してのちょっとした変更だと思っていても案外影響がある場所は多い。

フラッシュアイデアを思いついて伝えるときにそのアイデアに付随する影響ををあまり評価せずに作業者にまかせてしまう人はいるだろう。

フラッシュアイデアは悪か

フラッシュアイデアそのものを批判しているわけではない、ゲーム作りにおいてアイデア出しは必須であるし、ブレストなどではどんなくだらない思いつきでも場に出すことが推奨される。問題はそのアイデアを思いつきの勢いに任せて採用しようとすることだ。

フラッシュアイデアの扱い方

ではフラッシュアイデアはどのように扱ったら良いだろうか。まずその時の開発のフェーズを確認する。それがブレストなどのアイデア出しの段階であればどんどん出してしまおう。躊躇することはない。

しかし、それがある程度開発が進んで成果物ができてきた段階であれば一旦自分の中で留める。そしてお手洗いに行くなりご飯を食べて一旦心を落ち着かせてから再度確認する、なぜこのアイデアが良いのか、このアイデアはこのゲームがプレイヤーにしてほしい体験を適切に提供できるのか、チームのメンバーに差し込みで作業をお願いしても良いほどのアイデアなのか、などである。そうすると殆どのアイデアは落ちるだろう。

イデアがその確認をパスした時、もしくはどうしても判断がつかず周りの意見を聞いてみたいと思った時に、初めてチームに共有すると良いだろう。

イデアの伝え方

イデアの伝え方にも工夫が必要だ。

作業者が一番困るのは "このアイデアは良いと思いませんか?" とただ投げてくる場合である。これに答えるのはなかなか難しい、まずそのアイデアがどういう理由で良いのかがわからない。そして、そのアイデアの良し悪しを考えるのにも時間が必要だろう。さらに適当に "良いですね" と答えようものなら "じゃ、お願いします" といわれ、作業者の負担が増える、変更が軽いものなら良いが、重いものなら作業者に対する負荷になるとともに成果物にも影響がでるかもしれない。作業者の方で工数を算出するにも時間がかかるし、アイデアに対していきなり "これくらいの追加工数をいただきますが良いですか?" などと聞いたら角が立つかもしれない。ままならないものである。

そこでまず伝える側の工夫として以下の点を事前に考えておくとよいだろう

  • なぜこのアイデアを導入したいのか
  • このアイデアの重要度はどれくらいか(ある程度追加工数をとっても導入するべき、追加工数が比較的少ないのであれば導入したい、導入の前に一度みんなの意見を聞きたい)

この2つがわかるだけでも議論を進めやすいだろう。

もう一つ大事なことは工数追加や影響範囲に関して理解があるということを示しておく、ということだ。アイデアの共有の後に、このアイデアの採用にあたってどれだけの工数が必要で影響範囲がどれぐらいか、もしくはそれを調べるのにどの程度工数が必要なのかを聞いておくことが大事である(仮に追加工数を取りたくないと思っていても)。

これは作業者に対してのフォローになる、追加工数を取る準備ができているとわかっていればアイデアそのものを素直に評価できるようになるし、相手が自分のことを気にかけてくれているとわかっていれば、多少は工数内で頑張ってくれるかもしれない(返報性という)。

イデアの受け方

出てきたアイデアを受け取る方にも気をつける点はある。

まずわからないところを明らかにする。なぜそのアイデアが良いのかわからないときはアイデアの意図を聞き、そのアイデアの採用にあたっての追加工数が取れるかどうかがわからなければそれを聞くのである。

そして不明点をなくした上で自分の考えを伝えるのだ。そのときはアイデアそのものと作業の都合を分けて伝えるとよいだろう。"アイデアとその意図は良いと思いますが、その改修を行うためには8時間ほど時間が必要です"という塩梅である。

フラッシュアイデアに強いチームとは

イデアの伝え方として方針を考えてみたが、このような方針を使わずどんどんチームにアイデアを共有してもうまく回るチームもあるだろう。そのチームの特徴はお互いに信頼と尊重があるチームだ。そのようなチームだと発言はどんどんされるし、仮に未熟な状態でアイデアが上がってきてもそれぞれの視点からきちんと主張を行い、適切にアイデアを扱うことができるだろう。

まとめ

フラッシュアイデアを採用するためには考えるべきことが案外多い。

重要なのは以下の3つである

  • その時の気分に流されず一度アイデアを吟味する
  • チームに共有するときはきちんと説明する
  • 作業をお願いする相手の都合を鑑みる

せっかく思いついたアイデアだ、説明不足やメンバー同士の変な確執で棒に振らないようにしたい。

ゲーム作りに使える心理学【集団思考】

ゲーム作りに使える心理学として集団思考を紹介する

集団思考の罠

集団で意思決定を行う場合に不合理、あるいは危険な意思決定がされること。集団浅慮ともいう

集団思考の8つの症状

米国の心理学者であるアーヴィング・ジャニスは、集団の心理的傾向をモデル化し、以下の8つの項目に分類した。

  • 自分たちは絶対大丈夫という楽観
  • 外部からの警告を軽視し、自らを省みない
  • 自分たちを正統とし、倫理や道徳観を無視
  • 外部の集団への偏見・軽視
  • 組織内で異論を唱えづらい
  • 組織の意思に対して疑問を持つことへの罪悪感
  • 全員の意見の一致が前提
  • 集団の合意を覆す情報を見ようとしない

これは米国の史実をもとに作られた分類だが、我々がチームでゲーム作りを行う上での反面教師とすることができるだろう。今回はこの内のいくつかをピックアップし、ゲーム開発の現場に当てはめながら考えてみる。

外部からの警告を軽視し、自らを省みない

これはユーザーレビューが考えられるだろう。どんなゲームであれある程度売れたり、ダウンロードされたりしたゲームにはレビューがつくものだ。その中にはただの悪口の場合もあれば、それなりにゲームを遊んだ上で不満点を上げてくれるものもある。これらを"プレイヤーはそういうものだから、彼らはゲーム作りを知らないから"とおざなりにするのはとても惜しいことだ。

別に彼らの言うとおりに改修したり、機能追加したりしなくても良い。むしろプレイヤーの要求を鵜呑みのするのは危険だ。ただプレイヤーがどのような不満を持っており、ゲームのどのような部分に改善点があるかを知るには有益な情報となるだろう。

組織内で異論を唱えづらい

これはチーム内にある程度経験を持っていたり、地位をもっていたりする人がいる場合に発生することが多いと感じる。過去の有名なゲームタイトルの開発メンバーだったり、開発歴が20年以上あるような人がいると必然的にそのような人に発言権や決定権を持っていかれやすい。仮にその人がチーム開発の進め方をある程度心得ていたとしても、開発経験が少ない人や、組織内できちんと適応してきた人は彼らに対して積極的に意見しようと思わないだろう。なぜならば彼らのほうが経歴も経験もあるのだから。

ここで問題になるのはそのような経歴を持った人がその時の開発において適切な助言や意思決定ができるとは限らないことだ。ここ20年を見てもゲームのあり方やプレイヤーの楽しみ方は大きく変わっており、それらに適応し、その時々の時流に応じたゲームづくりができる人材はそう多くはない。

全員の意見の一致が前提

これもよくあることだろう。会議などで何かを決めるときに全員の意見が一致するまで議論を繰り返す、ということだ。これはゲームのプランニングに関しては特に危険な傾向である。なぜならば人が面白いと感じる体験そのものがその個々人の経験や知識に紐付いており、全員が手放しで素晴らしい、と思えるような体験はこの世に存在しないからである。プランナーそれぞれの意見を一致させるために体験同士を歩み寄らせれば中途半端なものができてしまうだろう。喜劇と悲劇を組み合わせても傑作はできない。

まとめ

集団思考の罠はその組織に深く根付いており、1人のメンバーがそれを改善することはかなり難しいものになる。

もし権限がなく、このような集団思考に疲弊しているのであれば職を変えたり、一人でゲームを作ったりするのもありだろう。仮に権限を持つ立場にいるのであれば集団がこのような罠に陥らずに合理的で実りのある意思決定をするための行動を起こしたいものだ。

関連

ゲーム作りと知覚の差異 - gametips

参考

集団思考 - Wikipedia

参考書籍(Amazon)

知識ゼロでも今すぐ使える! 行動経済学見るだけノート